鏡と前世と夜桜の恋
「蓮稀、鈴香、ゆきの分… これで済むと思うな」
床に転がり赤い液体を流し、目を押さえて許しを乞う申又。だがその姿は、咲夜の怒りを鎮めるにはあまりにも軽かった。
――その程度で許せるものか。
今すぐ命を奪うこともできる。だが、優先すべきは別にある。
ゆきを、取り戻すこと。
「わ、わか… た、たから… こ、ない、でくれ… 」
必死で何度も何度も許しを乞う申又
咲夜は小刀を収めると、呻き続ける申又を一瞥し、部屋を後にした。
足早に廊下を進み、元の部屋へ戻る。
ゆりねが待っていた。
「恨みは晴らせたのかい?」
その問いに、咲夜は答えなかった。
黙ったまま着物を脱ぎ、化粧を落とし、咲夜は元の姿へと戻っていく。
部屋には衣擦れの音だけが静かに響く
「ゆきには?」
「大丈夫です、キリシマがお伝えしているかと思います。咲夜様… 気をつけて」
申又の居る部屋は人が集まり、悲鳴が聞こえる… 咲夜はその人混みを利用し店から抜け出した。
その頃、雪美は座敷の片隅で膝を抱えたまま、灯りに揺れる文を見つめていた。

「なんで… 何してるの、さく…」
震える声は誰に届くでもなく、静かな空気に溶けていく… キリシマから手渡された文は、短く、それでいてあまりにも重かった。読み終えた瞬間、胸の奥で押し殺していたものが決壊する。
ぽたり、と涙が紙の上に落ちた。
「私のことはもういいの… 少しの間だったけど、幸せを貰えた」
絞り出すような言葉は、自分自身に言い聞かせるためのものだった。
「あんなに苦しんで、やっと無罪になれたのに… また、そんなこと… 」
声がかすれ、続かない。