鏡と前世と夜桜の恋
現れた申又は片目を布で覆い、着物にはべっとりと血が染み付き、その姿はまるで " 鬼 " だった。
申又の目が雪美を捉えた瞬間、空気が変わる。
「この女…」
低く濁った声。
次の瞬間、雪美の髪が乱暴に鷲掴まれた。

「っ…」
頭皮が焼けるように痛み雪美の細い身体はそのまま畳を引き摺られた。
「い、たい… 離し…っ」
「黙れ!!このアバズレがァァ!!」
申又の怒声が響く。
部屋へ投げ込まれた雪美は、畳へ肩を強く打ち付けた。
痛みで息が出来ない… それでも申又は止まらなかった。鬱憤を晴らすように何度も何度も雪美を蹴り、殴りつける。
雪美は抵抗しなかった。
ただ身体を小さく丸め、唇を噛み締めて耐えていた。
頬を打たれるたび、白い肌に赤い痕が滲む。
細い肩が震える。
乱れた黒髪の隙間から覗く瞳だけが、酷く静かだった。
――さく。
心の中で、何度も名前を呼ぶ。助けてとは思わず " 来ないで " と願っていた。
これ以上、自分のせいで咲夜が傷付くくらいなら… 雪美は血の滲む唇を震わせながら、必死に涙を呑み込む。
「…っ 」
その顔は痛みで歪みながらも微笑み、どこか幸福を失った者だけが持つ、諦めに似た優しさを宿していた。
「母上に伝えろ。咲夜が現れたと。許さん… あの男…!」
申又は片目を押さえ、荒く息を吐いていた。指の隙間から滲む血が、ぽたり、ぽたりと畳へ落ちる。
その怒声に雪美の肩が小さく震えた。
「待って… さくは、悪くな…」
「悪くないだと!?」
申又は雪美の襟を掴み無理矢理顔を上げさせた。