鏡と前世と夜桜の恋
「この傷を見ろ!!これでもまだ、あやつが悪くないと言えるのか!?お前を解放しろと… 彼奴は俺に刃を向けたのだぞ!!」
怒気に満ちた声が狭い部屋を震わせる。
雪美は唇を噛み締めた。
胸の奥では今すぐにでも咲夜の名を呼びたかった。" 逃げて " と " どうか生きて " と。
けれどそれを口にした瞬間、咲夜は追われる… もっと酷い目に遭う。
雪美は、自らの心を殺した。
「… 私は、何処にも行きません」
震える声で、それでもはっきりと言う。
「あなたの側にいます。罰なら… 私が全て受けます。だから… さくだけは… 」
その言葉は、まるで枯れ果てた井戸の底から絞り出したようであった。そこに真心はなく希望もない。
ただ、咲夜を守る為だけの偽り… 雪美の心はもう涙すら流れぬほど乾き切っていた。
―― 無の感情の誓い。
申又は雪美の言葉を聞くや、嬉しそうに口元を歪めた。
「… は、はは、やっと言ったな!そうか。俺の勝ちだ」
咲夜に勝った。そう思った瞬間、申又の中で燻っていた怒りと屈辱が、一気に溢れ出した。
鈍い音が響く。
雪美の身体が畳へ崩れた。それでも申又は止まらない… まるで鬱憤を晴らすように、何度も何度も拳を振り下ろした。
雪美は抵抗を見せず、ただ静かに目を閉じ、心の中で咲夜の無事だけを祈っていた。