鏡と前世と夜桜の恋

その時だった。


ザァッ―――

突然、上空から強い風が吹き抜ける。

警察官たちが思わず顔を上げた。


月明かりの差し込む岩の上に、1人の男が立っていた。

月光に反射した青銀の髪を風になびかせ、鋭い金色の瞳が闇を見下ろしている。

圧倒的な存在感。

その姿を見た瞬間、一人の警察官が目を見開いた。



「ば、馬鹿な… 」

喉が震える。



「は、は、蓮稀様…?」

別の警察官も息を呑む。







「死んだはずじゃ… 」

誰もがそう思っていた。



あの日、確かに消えたはずの青龍のように月光に煌めく髪… なのに今、目の前にいる。

蓮稀は冷たい視線を向けた。



「死んだ?」

鼻で笑う。

「勝手に殺すな」

その一言だけで空気が凍り付き、警察官たちは蓮稀を見て思わず後ずさる。



蓮稀はゆっくりと岩から降りる。

コツ…

コツ…

足音が近付くたびに圧迫感が増していく。


「お前達は今、誰を追っている。」

低く響く声。

「さ、咲夜様です。誘拐及び傷害の容疑が… 」



その瞬間…

蓮稀は地面をわざとらしく叩きつけた。

大地が震える。

岡っ引達は思わず身構えた。


「誘拐?傷害?」

蓮稀の瞳が鋭く光る。

「面白い冗談だ」

冷たい笑みが浮かぶ。

「おすずが雪美に何をした」

「陽菜が咲夜を脅し何を隠している」

「藤川が何人脅した」

「申又が雪美にどれだけの傷を負わせた」

一人一人の名前が出る度、逆らえず動いていた岡っ引き達の顔色が変わっていく。


「証拠もある」

そう言うと蓮稀は懐から数枚の写真を投げた。

地面へ散らばった写真… そこには暴力の痕、隠されていた取引、偽装された証言。

岡っ引き達は絶句する。


「こ、これは… 」

蓮稀は静かに続けた。

「お前達は咲夜だけを悪人に仕立て上げ連中の言葉だけを鵜呑みにして信じた」

「そして守るべき者を追っている。」



沈黙。

誰も反論できない。

蓮稀の瞳がさらに鋭くなる。

「雪美を傷付けた者達を見逃し」

「真実を隠した者達を放置しそれでも咲夜を追うのか?」



ズシリ―――

言葉だけなのに重く、まるで胸を掴まれるような圧… その場に居た者は、無言で顔を見合わせた。

誰も何も言えない。

蓮稀は彼らを見渡し、最後に静かに告げた。

「咲夜は命をかけて雪美を守ろうとした」

「その事実を知らず追うなら好きにしろ」



一歩前へ出る。

月光が蓮稀の姿を照らした。

「だが… 」

金色の瞳が細くなる。

「咲夜を追うのなら今度は政条家… 俺がお前達の相手になる」



その瞬間、空気が震えた。

警察官たちは誰一人動けなかった。

死んだと言われていた蓮稀… だが、蓮稀は確かにそこにいた。


岡っ引きの一人は恐る恐る口を開く

「蓮稀様、写真だけだと強い証拠には… 」

「分かっている。だからあの一族は暫く泳がせおく、俺が生きている事も絶対に公に出すな」


「水面下で動き、確実な証拠を掴み捕まえろ」

真剣な表情の背後には、咲夜を守るという揺るぎない意思が燃えていた。

その黄金の瞳が一人ひとりを射抜く。

「命じられたから、と…」

とても静かな声だった。

だが、その場にいる誰もが息を呑んだ。
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