鏡と前世と夜桜の恋
一瞬の静寂、次の瞬間…
「え、本当!?」
陽菜が飛び上がった。
「本当にっ!?」
「時は経った、誰も怪しむ事はないだろう」
おすずは楽しそうに続ける。
「盛大な式を挙げようじゃないか、生き残った政条家の次男、村中を呼んでねえ」
陽菜は涙を流しながら笑い始めた。
「やった… やっと!やっと咲夜さんが私だけのものになる!」
部屋中を回りながら笑う。
嬉しさというより執着。
愛情というより所有欲。
陽菜の姿は、まるで大切な玩具を手に入れた子供のようだった。
その狂喜乱舞を――
咲夜はただ黙って見ていた。
何も言わない。
反対もしない。
怒りもしない。
喜びもしない。
ただ静かに座っている咲夜…
雪美の姿が何度も何度も頭の中を巡る。
―― 信じてたのに。
―― なんで来なかったんだ。
-- どうしてあの男を選んだ?
胸の奥が空洞になったようで、痛みすら感じない… 残っているのは虚無だけ。
おすずの話も陽菜の笑い声もどこか遠くで鳴っている雑音にしか聞こえない。
誰かが自分の人生を勝手に決めている。だが、それを止めようという気力すら湧かなかった。
月明かりが障子を白く照らし陽菜だけが幸せそうに笑い続けていた。
咲夜は――
まるで心を失った人形のように、静かに俯いていた。