鏡と前世と夜桜の恋

雪美は震える手を袖へ入れた… そこには、ずっと大切にしまっていた一本の簪。

これは昔、さくがくれたもの。

" よく似合う "

そう笑って渡してくれた日の記憶が蘇る…

何度捨てようとしても捨てられなかった、どんなにつらくてもそれだけは雪美の宝物だった。

雪美は境内の片隅にある、小さな石の上へ簪をそっと置く。







最後まで丁寧に

壊れないように

傷つかないように

まるで、最後の想いを置いていくように… 涙が一粒、簪へ落ちた。

雪美は震える声で、小さく呟く。

「… さよなら、さ、く… 」

最後まで名前を呼び切ることはできなかった。


その一言だけを残し雪美は背を向ける。


もう振り返らない…

振り返れば、きっと戻れなくなるから。

婚礼の祝福の声はますます大きく響く。

" おめでとうございます!"

" 末永くお幸せに!"

拍手と笑顔が広がる中、雪美だけが誰にも気付かれないように静かに歩き去っていった。


その背中は小さく、儚く、それでも最後まで涙を隠そうとしていた。

石の上には誰にも気付かれないまま、簪だけが静かに残されていた。

婚礼の儀が終わり祝いの宴… 村人達は酒を酌み交わし、笑い声が屋敷中へ響いている。

咲夜は気付かれぬよう雪美が残した簪をこそっと自分の懐に入れた。

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