鏡と前世と夜桜の恋
陽菜は終始上機嫌だった。
「ねぇ、咲夜さん」
袖を軽く引きながら、楽しそうに笑う。
「あの子、見たでしょう?」
咲夜は盃へ視線を落としたまま答えない。
「ゆきちゃんよ!」
陽菜は意地悪く口角を上げる。
「私が呼んだの。私を選んだところを、あの子にも見せてあげたかったから❣️」
咲夜の指先がわずかに止まる。
「… 知っている」
短く、それだけ答えた。
「でしょう?」
陽菜は嬉しそうに笑う。
「でも、咲夜さん… ゆきちゃんのこと一度も見なかったわね?」
「ああ、見なかった」
咲夜の返事はあまりにも静かだった。
「どうして?」
陽菜は首を傾げる。
「咲夜さんが昔の情でも残っていたら困ると思ったのに〜」
咲夜はゆっくりと息を吐いた。
「見れば… 迷いが顔に出る。だから見なかった」
陽菜の笑みが一瞬だけ固まる。
「俺はお前の夫になると決めた。ならば、ゆきを見る資格はない… 」
その言葉に嘘はなかった。
雪美を見れば幸せな日々を思い出す。
幼い頃に笑い合った時間、何度も守ると誓った約束、雪美の笑顔、雪美の涙。
その全てが心を揺らすと分かっていた。
だから咲夜は、一度も振り向かなかった… いや、振り向けなかった。