鏡と前世と夜桜の恋

その頃――


雪美は誰にも気付かれないよう、屋敷を離れていた。

境内の石の上へ置いた簪は、そのまま残されているだろう… そう思いながら胸にぽっかりと穴が空いたような感覚だけを抱えながら、ゆっくりと歩く。


「… これで、本当に終わり」

呟いても、雪美の涙は止まらない。


背後では祝いの太鼓が鳴り続けている… その音が遠ざかるたび、咲夜がまた遠い人になっていく気がした。


宴の最中。

陽菜は満足そうに盃を傾けた。

「ゆきちゃん、きっと諦めがついたでしょうね」

何も答えない咲夜の沈黙を陽菜は自分への肯定だと思っていた。

しかし咲夜の胸の内だけは違った。


(ゆき… )


もう心の中で名前を呼ぶことしかできない。もう声に出す資格すらない、俺は裏切った、自分で選んだ道だから。

だからこそ最後まで雪美を見なかった。

それが、自分に出来るたった一つのけじめだと信じて。


一人、自分の屋敷に戻った雪美は障子越しに差し込む月の光を見つめながら、静かに息を吐いた。

村ではもう誰もが口をそろえて言っている。

" 理由はどうであれ政条家の次男、咲夜は陽菜を選んだんだと "

だが雪美だけは、その言葉をどうしても信じることができなかった。

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