鏡と前世と夜桜の恋
咲夜は誰よりも義を重んじる人だった。何も理由なく、私を捨てるような人ではない。
胸の奥で確かな確信が静かに灯る。
「きっと… 脅されてる」
そう呟いた声は、小さいながらも揺らいではいなかった。
その頃、水面下では政条家が本格的に動き始めていた。
死んだと世間に思わせた蓮稀を中心に、おすず一家の悪事を暴くため、誰にも知られぬよう証拠を集め続けている。
表向きには静かな村。
しかし、その裏では、誰にも見えない戦いが始まっていた。
雪美は膝の上でぎゅっと拳を握る。
(私も… 何かしなきゃ)
守られているだけでは駄目だ。
咲夜を救いたい、蓮稀の力になりたい、それが今の自分にできる、唯一の恩返しだと思った。
脳裏に一人の男の顔が浮かぶ。
" 申又 "
おすずの息子であり今は負傷して床に伏している男… 咲夜には強い敵対心を持ち暴力的だが雪美を気に入っている。
( … 私なら近づける)
怪我を気遣い、看病を続ければ、警戒も緩むかもしれない… 人は弱っている時ほど、本音をこぼす。
ほんの一言でもいい。
何か一つでも、おすず一家の尻尾を掴める証拠が見つかれば、それだけで状況は変わる。
雪美はゆっくりと立ち上がり迷いはもうなかった。
私は戦えないし剣も握れない
だけど――。
「私には私の戦い方がある」
人を信じること。
相手の心に寄り添うこと。
その優しさがきっと真実を引き寄せる。
蓮稀は命を懸けて戦っている。
ならば、自分も命までは懸けられなくとも、覚悟だけは同じでありたい。
「さく、待ってて… 」
雪美はそっと空を見上げる…
夜空に染まる雲の向こうには、同じ空を見上げている人がいる気がした。
「蓮稀… 私も手伝うからね」
静かな決意は、誰にも聞こえないほど小さな声だった。
それでもその想いは、刀よりも強く、炎よりも熱く、雪美の胸に燃え始めていた。