鏡と前世と夜桜の恋
「違う… 俺は… 」
「違わないじゃない!!」
障子が震えるほどの声が家中に響き、陽菜は髪を振り乱しながら叫び続けた。
「ゆきちゃんなんてコロしてやる!」
「咲夜さんの一番は私だけなのに!」
「咲夜さん、私だけを見て!」
「私だけを愛して!」
「憎い憎い憎い… 殺してやる… 」
「絶対に… 殺してやる!!」
村人が聞けば恐怖で震えるほどの絶叫だった。
咲夜は慌てて陽菜の肩を抱く
「陽菜、頼む」
「落ち着いてくれ」
「ごめん、全部俺が悪い」
「全部俺が悪いから… 」
何が悪いのか自分でも分からない。ただただ何度も何度も謝り続ける咲夜。
胸を締め付ける痛みと、目の前で壊れていく陽菜。この女の所有物として生きて行くと覚悟を決めたのに… 前と何も変わらない。もう疲れた、これ以上誰も傷つけたくないのに自分が耐えれなければ。
… そう思ってしまうのが、咲夜という男だった。
その夜からだった。
陽菜は毎晩のように雪美の名を口にするようになった。
「今日はあの女のこと思い出した?」
「まだ好きなの?」
「夢に出てきた?」
「早く忘れなさいよ!!!」
返事が少しでも遅れれば泣き叫び、物を投げ、髪を掻きむしる… そんな陽菜に対して咲夜は何度も頭を下げた。
「ごめん… 」
「ごめんな」
「俺が悪い」
謝れば収まる、だから謝る。
謝り続ける。
けれど謝るたび、胸の奥の痛みだけは深くなっていく… 自分は一体、誰に謝っているのだろう。
陽菜にか?
それとも――。
記憶が無く忘れたふりをしとかないと陽菜が落ち着かない、雪美という女性にか?
囲炉裏の火が小さく揺れ、咲夜は誰にも見えないように胸元を押さえ、涙だけが静かに畳へ落ちていった。
-- その頃。
遠く離れた村では、雪美が夜空を見上げていた。
理由もなく胸が締め付けられ、頬を一筋の涙が伝う。
「… さく」
風だけが、その小さな呟きを運んでいった。
「咲夜さん、早く子供よ!子供子供子供子供子供子供子供子供子供子供… 」
「陽菜… 」
「今すぐ私を孕ませて、咲夜さんと私の子供を… いいの?ゆきちゃんがどうなっても」
「… そんな女は知らない」
「憎い… あの子が生きてる事が許せない、私の物なのに、咲夜さんの記憶を消したい… 」
