鏡と前世と夜桜の恋
季節は巡り、若葉は深い緑へと変わり、やがて山の木々は色づき始めていた。
雪美が申又の屋敷へ潜り込むようになってから、もう幾月が過ぎただろう。
夜ごと屋敷を歩き回り、文箱を開き、帳面を確かめ、書庫の奥まで調べても、蓮稀の力になれるような決定的と言える証拠は、結局見つからなかった。

「… これも違う」
雪美は小さくため息をつき、元の場所へ静かに戻す… 初めは焦っていた。
一日でも早く証拠を見つけ、申又を止めなければならない。
その思いだけで動いていた。
だが、人の心とは不思議なものだった。
森へ向かい、咲夜の笑顔を見るたびに、その焦りは少しずつ溶けていった。
「ゆき」
その一言で胸が満たされる。
咲夜の隣で囲炉裏を囲み、他愛もない話をする。
山で摘んだ木の実を分け合い、川魚を焼いて笑い合う… 時には何も話さず、並んで座って風の音を聞くだけの日もあった。
そんな時間が、雪美には何より愛おしかった。
「今日は申に乱暴されなかったか?」
突然、咲夜が尋ねると雪美は少し慌てたように笑う。
「大丈夫、あの人はまだ床に伏せたままだから。お世話をしてた。でも、途中でさくの顔が見たくなってしまって… 」
「それで来たのか?」
「うん」
咲夜は嬉しそうに微笑む。
「それで十分だ」
その笑顔を見るたび、雪美は思う。