鏡と前世と夜桜の恋
――その頃。
屋敷では、陽菜が座っていた。
膝の上に手を置き、静かに腹を撫でる。

ほんの少しだけ膨らみ始めた腹…
陽菜はそこへ手を添えると、自分の腹を見て微笑んだ。
「… そろそろ戻って来て貰わないと」
声は驚くほど穏やかだった。
まるで、愛しい人に語りかけるように。
「お父さんもうすぐ帰ってくるからね」
腹を撫でる手が、ゆっくりと動く。
「大丈夫よ?ちゃんと帰ってくるわ」
陽菜は微笑んだ。
その笑顔には、嫉妬も怒りもなく… だからこそ、不気味だった。
咲夜がどこへ行こうと。
誰と会おうと。
何をしていようと。
陽菜には、もう関係ない。
彼女の中では既に答えが決まっていた。
―― 咲夜は帰ってくる。
帰ってくるべき場所は " ここ "
自分のところ。
そして、その証になるものがもう自分の腹の中にいる。
「これで… 完全に私の所有物だもん❣️」
小さく呟いた、陽菜の声には、少女のような無邪気ささえもあった。
「誰にも渡さない」
ふっと笑う。
「雪美さんにも」
庭に風が吹き、木の葉が一枚陽菜の足元へ落ちる。
陽菜はそれを拾い上げ、指先で弄びながら、また微笑んだ。
「私のほうが咲夜さんのこと大好きだし待ってるんだもの… 」
その頃、遠く離れたログハウス… 雪美は咲夜の隣で笑っていた。