鏡と前世と夜桜の恋
何も知らないままいつものように家へ戻ってくる。
玄関の前で足を止め、鍵を取り出す。
その時、咲夜はふと違和感を覚えた。
地面に残った、いくつかの足跡。
「……?」
誰かが来たのだろうか、ゆき?
いや、そんなはずはない。今日は申又との約束があると言っていた。
咲夜はしゃがみ込み土の上に残された足跡を見つめる… だが、それが誰の足跡か分からない。
違和感を感じながらも立ち上がり扉を開ける。
その頃には、おすずと陽菜の姿はもう遠く離れていた。
けれど――。
咲夜の知らないところで居場所が特定され、帰り道の途中… 陽菜は何度も振り返っていた。
まるで、あの家そのものを胸の奥へしまい込むように。
「私の咲夜さん… 」
何度も何度も小さく名前を呼ぶ。
「次はちゃんと迎えに行くからね」
「咲夜さん、咲夜さん、咲夜さん、咲夜さん、咲夜さん、咲夜さん… きゃはは、あはっ、咲夜さん〜」
夕暮れの森に、陽菜の声だけが高らかに残った。