鏡と前世と夜桜の恋

京に滞在中の陽菜は久しぶりに見慣れた屋敷へ足を運んでいた。

奥の座敷ではは弟の申又が不機嫌そうに腕を組み、畳の一点を睨みつけている。







「もういらないあんな女… 」

吐き捨てるような声だった。

「俺に愛があるわけでもない。殴っても声ひとつ出さない、泣きもしない。… つまらん女だ」


陽菜は黙って弟の顔を見つめた。

その言葉が本心ではないことくらい、姉の陽菜には分かっている。

申又は昔からそうだった。何かにつけて人と張り合い、とりわけ咲夜のことになると、途端に意地になる。

幼い頃から、咲夜だけには負けたくない。

何をしても、何を持っていても上に立っていたい。


それが申又という男だった。

だから陽菜は、ほんの少しだけ口元を上げた。

「本当にゆきちゃんのことを手放してもいいの?」

「… 居た所で居ないのと同じ、俺に愛嬌すらない!!」

「そう」

陽菜はあえて、それ以上を急がなかった。

そして、何気ない調子で続ける。


「ゆきちゃんを自由にしたら… 咲夜さんのところへ行くでしょうね」

申又の眉がぴくりと動いた。

「……。」

「だって、ゆきちゃんが本当に会いたい人は咲夜さんでしょう?隠れて会いに行ってるくらいなのに」

「… う、うるさい」

「それでいいの?」

陽菜は静かに申又を見た。
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