鏡と前世と夜桜の恋
「ゆきちゃんを自由にしたら、咲夜さんの思い通りよ」
その一言が申又の胸に深く刺さった。
「アイツの思い通り… 」
「そう。ゆきちゃんを手放した瞬間、咲夜さんは喜ぶでしょうね」
陽菜はさらに言葉を重ねる。
「きっと何事もなかったようにゆきちゃんを迎え入れて二人で仲良く暮らすのよ」
「なっ… 」
「申はそれを黙って見ていられるの?」
申又の顔から、先ほどまでの退屈そうな表情が消えていく。
陽菜はそれを見逃さなかった。
――もう少し。
「別に私はゆきちゃんを置いておけと言っているわけじゃないわ」
「… じゃあ、何だ」
「ただ… 逃がさなければいいのよ」
「逃がさない?」
「ええ」
陽菜は微笑んだ。
「今まで通り、屋敷に置いておけばいいじゃない。首輪でも何でもつけて。そうすれば、少なくとも咲夜さんのところへは行けないでしょう?」
「……。」
「申が手放したくないのなら、手放さなければいいだけ」
その言葉に、申又の拳がぎゅっと握られた。頭の中に、咲夜と雪美が並んでいる姿が浮かぶ。
二人が自分の知らない場所で笑い合い、何事もなかったように暮らす… そんな光景だけは、どうしても許せなかった。
「… くそっ!」
申又は苛立ちのまま、畳を踏み鳴らした。
陽菜は何も言わない。
ただ、申又の心が自分の思惑通りに動き始めたことを、静かに見届けていた。
" 咲夜さんを守るには弟を利用する "
利用出来る駒はなんでも使う、咲夜さんの為なら… 陽菜にとって家族であっても関係なかった。
" 咲夜さん待たせてごめんね "
全ては陽菜の思惑通りに進んで行く…