鏡と前世と夜桜の恋
申又に傷つけられることはあっても、申又と夫婦のような関係は目を負傷してから暫く音沙汰ないが、咲夜とは毎晩のように求め合っていた。
だとしたら――。
雪美の脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。
「…さく… 」
咲夜。
自分が心から愛する人。
もし、本当にそうなのだとしたら。
この子は――。
「… さくとの、子… ?」
その言葉を口にした途端、雪美の瞳から涙がこぼれた。
嬉しかった。
嬉しくて胸がいっぱいになった。
こんなにも苦しい日々の中で、自分の中に咲夜との繋がりがある。まだ確かめてもいないのに雪美はそっと自分の腹に手を添えた。
「本当に…?」
涙が次々と頬を伝う。
嬉しい。
嬉しいのに――。
その喜びはすぐに不安へと変わった。
「どうしよう…」
雪美は周囲を気にしながら、震える声で呟いた。
「申又には… 言えない… 」
言えるはずがない。
もし知られたら、この子まで奪われてしまうかもしれない。咲夜との子だと知られれば申又が何をするか分からない。
雪美は涙を拭いながら、もう一度腹に手を当てた。
「どうしよう… 」
喜びと恐怖。
二つの感情が胸の中で絡まり合う… それでもほんの少しだけ笑った。
まだ何も確かめてはいない。
けれど――。
もし本当に命が宿っているのなら… それは、雪美にとって暗闇の中に差し込んだ、初めての光だった。