鏡と前世と夜桜の恋

申又に傷つけられることはあっても、申又と夫婦のような関係は目を負傷してから暫く音沙汰ないが、咲夜とは毎晩のように求め合っていた。

だとしたら――。

雪美の脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。

「…さく… 」

咲夜。

自分が心から愛する人。

もし、本当にそうなのだとしたら。

この子は――。


「… さくとの、子… ?」

その言葉を口にした途端、雪美の瞳から涙がこぼれた。

嬉しかった。

嬉しくて胸がいっぱいになった。

こんなにも苦しい日々の中で、自分の中に咲夜との繋がりがある。まだ確かめてもいないのに雪美はそっと自分の腹に手を添えた。

「本当に…?」

涙が次々と頬を伝う。


嬉しい。

嬉しいのに――。

その喜びはすぐに不安へと変わった。

「どうしよう…」

雪美は周囲を気にしながら、震える声で呟いた。

「申又には… 言えない… 」

言えるはずがない。

もし知られたら、この子まで奪われてしまうかもしれない。咲夜との子だと知られれば申又が何をするか分からない。


雪美は涙を拭いながら、もう一度腹に手を当てた。

「どうしよう… 」

喜びと恐怖。

二つの感情が胸の中で絡まり合う… それでもほんの少しだけ笑った。

まだ何も確かめてはいない。

けれど――。

もし本当に命が宿っているのなら… それは、雪美にとって暗闇の中に差し込んだ、初めての光だった。
< 273 / 294 >

この作品をシェア

pagetop