鏡と前世と夜桜の恋
翌朝。
まだ陽が昇りきらない頃、雪美は申又と向かい合って朝餉を取っていた。
卓の上には、白い飯と焼き魚、それから湯気の立つ味噌汁。

いつもなら腹が減っている時間
けれど、今朝は違った。
味噌汁の香りが鼻をついた瞬間、胸の奥から込み上げるものがあり、雪美はそっと顔を伏せる…
箸を持つ手にも力が入らない。
「… 何をしている」
申又の低い声が落ちる。
雪美は慌てて箸を動かそうとした。
けれど、飯を口元へ運ぶことさえできない。
「ごめんなさい… 」
小さく呟いて、雪美は箸を置いた。
「今朝は… お腹、空いてなくて」
その言葉に申又の表情が変わった。
「は?」
「… ごめんなさい」
次の瞬間、乾いた音が部屋に響き雪美の身体がよろめく… 続いて申又の手から味噌汁の椀が乱暴に倒され、熱い汁が雪美の着物へとかかった。
「…っ」
雪美は息を呑んだ。
熱さより先に身体が勝手に動き腹を覆う… まるでその中にあるものを守ろうとするように。
雪美の行動を見た申又の動きが止まった。
雪美は俯いたまま、震える手で腹を押さえていた。自分でも気づかないうちに、そこを庇っていた。
申又は何も言わない。
ただ、雪美のその姿をじっと見ている。
「… なんだ、その仕草」
低い声だった。
雪美の肩がびくりと震える。
「えっと… 」