鏡と前世と夜桜の恋
雪美は答えられなかった。
言ってはいけない。
まだ何も確かめていない。
けれど――。
申又の目には、先ほどまでとは違う色が浮かんでいた。
疑うような。
探るような。
そして、ほんの僅かな戸惑い。
「… まさか」
申又が小さな声で呟く。
雪美は恐怖心から反射的に腹へ添えていた手を強く握りしめる。
その仕草が気に入らず申又は何度も何度も雪美の腹を蹴り、殴った。
部屋には、味噌汁の匂いだけが残る
「待… 」
このままじゃ駄目、赤ちゃんが… 雪美は申又の話しを聞かず無我夢中で屋敷を飛び出した。
屋敷を飛び出した雪美は、もう振り返らなかった。
息を切らしながら通りを駆ける。どこへ行けばいいのか… 考えるより先に足が向かっていたのは " 産婆 " と、書かれた場所だった。

この辺りでは、女の身体のことや、腹の子のことを診てくれる場所がある…
雪美は震える手で戸を叩いた。
「… お願いします」
中へ通され、いくつか尋ねられる。
月のものがいつだったのか、身体に変わったところはないか、吐き気はするか。
よくよく見ると雪美の腹は既に少し膨らんでいて、質問に一つ一つ答えていった。
やがて、産婆が雪美の腹へそっと手を当てる。
しばらくして――。
「… おめでとうございます」
その言葉を聞いた瞬間。
雪美の目から、涙がこぼれた。
やっぱり… 胸の奥でずっと分かっていたが、それでも確かめるのが怖かった。
「… いるんですか?」
声が震える。
「ええ。あなたのお腹に子がおります」
雪美は自分の腹へ手を添えた。