鏡と前世と夜桜の恋
「…さく?」
「ご、ごめん… 」
咲夜は笑いながら涙を拭った。
「嬉しすぎて」
もう一度、お腹に手を置く。
「本当にいるんだなあ… 」
涙が次から次へと溢れてくる。
「俺とゆきの子が… ここに」
雪美の胸にも、熱いものが込み上げた。
ずっと怖かった。

これから何が起こるのか、この子を守れるのか、咲夜に伝えてもいいのか。
何も分からなかった。
けれど今は――。
咲夜の手が、自分のお腹にある。
そしてその手は、これから生まれてくる命を壊れ物のように大切に包んでいる。
雪美の目からも涙がこぼれた。
咲夜はそれに気づくと、優しく笑った。
「泣くなよ、ゆき」
「さくだって泣いてるじゃん!」
「俺はいいんだよ!」
「何その理屈… 」
雪美が笑うと咲夜も笑った。
涙を流しながら。
二人は暫く何も言わなかった。
ただ、寄り添っていた。
外では夜の森が静かに揺れているけれどこの小さな部屋の中だけは、まるで別の世界だった。
傷ついた雪美と、雪美を抱きしめる咲夜… そして、二人の間にある小さな新しい命。
まだ姿さえ見えない。
まだ声も聞こえない。
それでも確かに、ここにいる。
咲夜はもう一度、雪美のお腹に手を添えた。
「… ゆき」
「なあに?」
「絶対に守るから」
雪美は答えず優しく微笑んだ。