鏡と前世と夜桜の恋
雪美の妊娠が分かった、その夜。
咲夜は、何度目か分からないほど雪美の腹へ視線を落としては撫でていた。その瞬間の咲夜の顔には、普段の目つきの悪さや険しさなど少しもない。
「幸せだ」
ぽつりと呟いて、咲夜は雪美の手を両手で包んだ。
「俺、父親になるんだな… 」
「… もう、その言葉何回目?そう、さくは父親になるの!」
「泣く… 大事にする。雪美もこの子も」
また嬉し涙を流す咲夜の涙脆さにくすくす笑う雪美… 二人の間には、静かな幸福が流れていた、その時だった。
(コン、コン)
戸を叩く音。
二人が顔を見合わせる。
そして、外から聞こえた声。

「咲夜さーん❣️」
咲夜の表情が一瞬で変わった。
「陽菜… 」
嫌な予感がした。
咲夜は反射的に雪美を立たせ、部屋の奥へ隠す。
「ここにいろ」
「え…?」
「絶対出てくるなよ」
だが、次の瞬間。
「咲夜さーん!」
ドンドンドンドンッ!
「開けてぇー… 開けろ、開けろ… 」
さっきまでの甘ったるい声とは別人のような奇声…
「中に入れろ!咲夜さんいるんでしょ!?」
状況把握した雪美の顔からも血の気が引く。
「開けろ、開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろおおおぉぉおお! 」
咲夜は拳を握り締めた。
「… 分かった」
ゆっくり戸へ近付き戸を開ける
「咲夜さーん❣️」
戸が開いた瞬間、陽菜が飛び込んできた。
「咲夜さん、咲夜さん、咲夜さぁーん… 」
嬉しそうに笑いながら、咲夜の腕へ絡みつく。
「会いたかったぁ、迎えに来たの」
「… 離れろ」