鏡と前世と夜桜の恋
「どうして?私はこんなに咲夜さんが好きなのに、夫婦なんだから何してもいいでしょう?」
陽菜は笑って嫌がる咲夜の背中に抱きつく… 陽菜の笑顔は妙に不気味だった。
その時――
鍵をかけていなかった裏口から、こっそりともう一つの影が滑り込んだ。
おすずだった。

「ゆき!!!」
咲夜は慌てて駆け寄ろうとするが、陽菜がしがみついて離れない。
「駄目よ、咲夜さんは私と一緒にいるの」
「陽菜、離せ!!」
「離れないもん〜」
雪美は必死に逃れようとするがおすずに押さえ込まれ、小さな体は巨漢に敵うはずがなく、身動きひとつ取れない。
「さ、さく… 」
雪美のか細い声を聞いた瞬間、咲夜の顔からすべての血の気が消えた。
ほんの少し前まで雪美と子の話をしていた、これから三人で暮らす未来を想像していた… あれほど幸せだったのに。
今、目の前にはその幸せを壊そうとする女がいる。
陽菜は怖がる雪美を見てくすくす笑った。
「ゆきちゃんのお腹に… 咲夜さんとの子供がいるんだよね」
その声は静かだった。
「… 許せない」
笑顔のまま、陽菜は着物の懐へ手を入れる。
「私だって咲夜さんとの子がいるのに… 」
咲夜の目が見開かれる。
「… 陽菜」
「どうしてゆきちゃんだけなの?」
陽菜の口元が歪む。
「どうして私じゃないの?」
そして、こっそり小刀を取り出した。
「許せない」
「陽菜、離せ… 」
「許せない… 」
「陽菜… 」
「許せない許せない許せない許せないぃぃいい!!」
陽菜は発狂し笑い狂いながら小刀を振り上げ、一瞬のことだった、執着と憎悪の刃が一直線に雪美の腹へ向かう。
「――っ!」
雪美の悲鳴。
「ゆき!?」
咲夜は夢中で飛び込み、陽菜の腕を掴んで必死に引き離そうとするが動かない。まるで女とは思えない力で… 陽菜は完全に狂っていた。
「やめろ!!」
怒鳴る咲夜に陽菜は怯えもせず、むしろ楽しそうに、嬉しそうに笑っている。
「あはっ… きゃはは… 」