鏡と前世と夜桜の恋
まるで、何か面白いものでも見つけた子供のように…
「咲夜さーん、そんな顔するんだあ?」
「… 黙れ」
「ゆきちゃんが傷ついたから?」
「黙れ!!」
やっとの思いで雪美から陽菜を引き離した咲夜は慌てて止血し、震える手で雪美を抱き寄せる。
「ゆ、ゆき…!!」
返事がない。雪美は恐怖に震えながら、ただ咲夜の着物を強く掴んでいた。
「ゆき、大丈夫だ… 大丈夫だから… 」
そう言いながら、咲夜自身の声も震えている。
腕の中にいる雪美。
その腹には、自分と雪美が待ち望んだ小さな命がいる… ついさっきまで三人で生きていく未来を思い描いていた。
それなのに… 咲夜は言葉を失った。
怒りよりも何よりも先に込み上げてきたのは恐怖だった。
… 失うかもしれない。
ゆきを。そして、この子を。その可能性を考えただけで、胸が引き裂かれるようだった。
一方、陽菜はそんな咲夜を見つめながら、おすずと二人で満足気に笑っている。
「そんな顔して… 咲夜さんが可愛い可愛い陽菜を残して家を出たから迎えに来てやったんだよ?わざわざ私達に足を運ばせて… 感謝してもらいたいくらいだね」
二人の笑顔には罪悪感の欠片もなかった。
「私の咲夜さんを盗んだゆきちゃんには罰を与えなきゃ… 私の咲夜さんを盗んで許せない」
咲夜は雪美を抱く腕にさらに力を込めた。
「… お前達は、狂ってる」
陽菜は嬉しそうに首を傾げた。
「そう?」
そして、にっこり笑う。
「じゃあ咲夜さんが私をそうしたのよ」
咲夜は陽菜の言葉に何も言えず
「なあに?その恐怖に満ちた目は… そうよ私は化け物、咲夜さんをだーいすきな」
「化け物だから傷付けても当たり前。だからゆきちゃんがどうなっても私には関係ないし問題もないよねぇー?」
その言葉に、咲夜の胸の奥が凍りついた。
「ふ、ふざけるな… 」
「ふざけてないもん。咲夜さんが私の言いなりにならないから、私を一番にしないから当然のことをしてるだけよ?」
「なーに?害虫は駆除しないと。私と咲夜さんの邪魔をする物は消す、ぜーんぶ消すの、きゃはは、ははっ、ゆきちゃん痛い?痛いよね?嬉しいね?ありがとうはー?」
幸せだった夜はどこにもなかった。
咲夜はおすずと陽菜を残し、意識を失う雪美の体を抱き上げ、雪美の父の… 病院に駆け込んだ。