鏡と前世と夜桜の恋
どれほどの時間が経ったのか。
あっという間に日が登り、夜はとうに深まり、外から聞こえていた人の気配もいつしか途絶えていた。
江戸の町にある今でいう診療所の一室、薄暗い部屋の中で、雪美は布団に横たわっていた。
一命は取り留めた。
けれど――。
雪美は、まだ目を覚まさない。

白い顔、静かに上下する胸。その傍には、咲夜が座り続け、一度も離れようとしなかった。
「… ゆき」
何度呼んでも返事はない。
咲夜はただ、眠り続ける雪美の顔を見つめていた。その目の下には深い疲れが刻まれている。
「咲夜」

金貸し屋兼医師をしている雪美の父が静かに声を掛けた。
「もう何刻も寝ておらんだろう。一度、帰りなさい」
「… 嫌です」
即答だった。
「ゆきが目を覚ますまで、ここにいます」
「お前の身体まで壊れてしまうぞ」
「それでも… 」
咲夜は雪美から目を離さなかった。
「ゆきの傍にいたいんです」
父は何も言えなくなった。
娘を想う咲夜の顔。その覚悟が、痛いほど伝わってくる… 暫くして、父は咲夜の肩へそっと手を置いた。
「… 咲夜は、本当に雪美を大切にしているんだな」
咲夜は黙って頷き、やがてゆっくり立ち上がる。
「お父さん」
「ん?」
「… 少し、話があります」
二人は部屋を出て扉が静かに閉まる。