鏡と前世と夜桜の恋
部屋に残されたのは、雪美一人。
――その直後だった。
裏口から、誰かが音もなく忍びみ…
陽菜だった。

辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、ゆっくり雪美の傍へ歩いていき眠っている雪美を見下ろす。
そして――。
にやり。
口元が歪んだ。
「ねえ、ゆきちゃん。まだ生きてるの?」
雪美の返事はない。
「許さない… 」
陽菜の声が震える。
「許さない、許さない、許さない… 」
懐から取り出したものを、月明かりが照らした… 刃物だった。
陽菜はそれを握り締める。
「咲夜さんは、私のものなのに… 」
笑っていた、泣いているわけでもなく怒鳴っているわけでもない。
ただ、壊れたように楽しそうに笑っていた。
「なんで… なんであなたが咲夜さんに愛されるの?なんで私じゃないの?」
雪美は眠ったまま… 反応はない。陽菜はそんな雪美を見つめながら、さらに笑みを深くした。
「だったら… 」
その先の言葉は、闇に溶けた。
部屋の中に乱れた物音が響く…
何度も、何度も、何度も布団の上から…
" グサっ、グサっ、グサっ "
陽菜は狂ったように刃物を突き立てた。
「許さない!!!」
「私のほうが、ずっと咲夜さんを好きなのに!」
雪美は傷だらけになり、口から真っ赤な血が流れる
「私のほうが… 」
やがて、部屋は再び静寂に包まれた。
「はぁ… はぁ… バイバイ、ゆきちゃん… 」
陽菜は荒い息を整えながら雪美を見下ろす… そして満足したように笑った。
「これで、咲夜さんは私のもの」
そう呟くと、陽菜は何事もなかったかのように足軽に身を翻し、裏口から闇の中へ消えていった。
部屋には血に塗れた雪美だけが残された。
何も知らず。
何も答えず。
ただ、深い眠りの中にいる…