鏡と前世と夜桜の恋
その頃――。
病院の別室。
咲夜と雪美の父は向かい合って座っていた。

咲夜は膝の上で拳を握っていた。
これから話すことは、自分自身の覚悟を伝えるためのものだった。
「お父さん… ゆきが元気になったら俺は、ゆきを連れて京を出たいと思っています」
雪美の父は黙って咲夜を見つめた。
咲夜は一度、深く息を吸う。
「ここを離れて… 二人で静かに暮らしたいんです」
「… そうか」
「ゆきには、もう苦しい思いをしてほしくない」
咲夜の声は震えていた。
けれどその言葉には迷いがなかった。
「俺がゆきを守ります」
長い沈黙。
やがて父は、ふっと優しく笑った。
「咲夜」
「はい」
「お前は、雪美を嫁に貰うつもりなんだな。あの一族の娘と婚約したのではなかったのか?」
咲夜は一瞬だけ目を伏せ、まっすぐ父を見る。
「… しました。無実の罪を着せられ無罪と引き換えに。そうでもしないとゆきと会えない、ゆきに会う為、自由な生活を手に入れる為、承諾しました」
「… それなら、私に言うことがあるんじゃないか?」
咲夜は姿勢を正した。
「雪美さんを、俺にください」
その言葉を口にするのに、どれほどの勇気が必要だったのか父には分かっていた。
「娘を幸せにできるか?」
「できます… いや、命に変えてでも必ず幸せにします!!!」
即答だった。
「逃亡生活は苦労するぞ」
「それでもいいです。ゆきが笑ってくれるなら、ゆきを幸せにしてやれるなら、どんな苦労でも俺は構いません」
「雪美が泣いたら?」
「俺がそばにいます」
「雪美が病気になったら?」
「付きっきりでずっと看病します」
父は静かに笑い、そして少しだけ視線を落とす。
「なら、私から言うことは一つだけだ」
咲夜は息を呑む。
「娘を… 頼んだぞ」
咲夜の目が揺れた。
父は穏やかに続ける。
「咲夜なら、雪美を大切にしてくれる気がする。お前は幼き頃から雪美、雪美、だったからな」
「お父さん… 」
「京を出ることも、反対はしない」
雪美の父は微笑んだ。