鏡と前世と夜桜の恋
「雪美が元気になったら、二人で好きなところへ行けばいい」
咲夜は深く頭を下げた。
「ありがとうございます!!」
そして顔を上げる。
「… もう一つ、考えていることがあります」
「何だ?」
咲夜は少し照れたように笑った。
「もし… 子供が生まれたら」
父も穏やかな表情になる。
「子の名前は… 風華 (ふうか) にしたいと思っています」
「風華… 」
「はい」
咲夜は遠くを見るような目をした。
「ゆきと俺のところに生まれてきてくれた子なら、風のように自由で、華のように優しい子になって欲しいと思って… 」
父はしばらく黙り、そして静かに頷いた。
「… いい名前だ」
「ありがとうございます」
「孫の顔… 私も早く見てみたいものだ」
咲夜は微笑んだ。
「きっと見せます」
二人は、まだ見ぬ未来の話をしていた。
雪美が目を覚ますこと。
京を出ること。
二人で暮らすこと。
いつか生まれてくる子供のこと。
――この時は誰も知らなかった。
そのすぐ近くの部屋で。
雪美の身に、再び恐ろしい出来事が起きていることを。
二人が思い描いていた未来が、静かに音を立てて崩れ始めていることを…