鏡と前世と夜桜の恋

話し終えた咲夜は一足先に雪美が眠る部屋に戻る。

「ゆき」

咲夜はいつものように名前を呼んだ、返事が無いのは分かってる。それでも愛しい女の名前を呼んだ。

一歩部屋へ入る、そこで足が止まった。

「… え?」

目の前にある光景を頭が理解することを拒んでいた、布団の上に横たわる雪美。


眠っている。


ほんの少し前まで見ていた寝顔と、何も変わらない。

目を閉じ、静かに横たわって。

今にも目を開け " さく " そう呼んでくれそうな顔。

なのに。

白い布団には、あまりにも異様な鮮明な赤が広がっていた。雪美の体には… 突き刺されたままの刃が残されていた。


咲夜の口がわずかに開く。

声が出ない、次の瞬間…







「――わあああああああああああああああああああああああっ!!」

病室を突き破るような絶叫。

「なんでだよ!!なんで… なんで、なんでなんでなんで…!!」

咲夜は雪美のもとへ駆け寄った。

「ゆき!!」


震える手で、雪美を抱き起こす。


「ゆき!!俺だ!!咲夜だ!!」

返事はない。

「お願いだから目、開けてくれ…!!」

何度呼んでも。

雪美は眠ったままだった。

「やだ… 」

咲夜の声が崩れる。

「やだよ… 」

涙が一気に溢れた。

「ゆき… いやだ、逝くな… 」

「お願いだから… 」

「俺を置いていかないで… 」



雪美の身体を強く抱き締める。

その身体が腕の中にあることだけを確かめるように、何度も何度も抱き締めた。

「ゆきの父さんから… 許可、もらったんだぞ… ゆきが元気になったら… 二人で京を出ていいって… 」

雪美の反応はない。
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