鏡と前世と夜桜の恋
「俺… ちゃんと話したんだ… ゆきを嫁にくださいって… 父さんも… いいって言ってくれたんだ… 」
嗚咽が混じる。
「二人で静かなところで暮らそうって… 」
「朝になったら一緒に飯食って… 」
「夜になったら… 隣で寝て… 」
「ずっと一緒にいるんだって… 」
泣きながら雪美の頬に触れる。
「ずっと一緒だって約束したのに… 」
「ごめん… ごめん… ゆき… 俺が離れたから… 俺が… ゆきのそばにいなかったから… ごめんゆき… ごめん… 」
何度謝っても、時間は戻らない。
「嫌だ… 」
咲夜の声が、ほとんど聞き取れないほど小さくなる。
いつものような静かな寝顔…
雪美の顔を見つめながら、咲夜はほんの少しだけ笑った。
「なあ、起きてくれよ… 」
「約束しただろ…」
咲夜は泣きながら雪美の髪を撫でる。
「子供の名前…」
その言葉を口にした瞬間、また涙が溢れた。
「風華にしたんだよ… まだ、ゆきには言ってなかったけど… 俺、考えてたんだ… 」
「風のように颯爽と生きて花のように可憐に生きる、優しい子になってほしいって… ゆきと俺の子なら… きっと、すごく可愛いって… 」
「三人で暮らそうって、だから… 」
声が震える。
「だから起きてくれよ… 」
「風華の名前、決めたよって… 言うはずだったのに… 」
雪美は何も答えない。
「… 本当に眠ってるだけみたいだな」
「起きたら… 怒るかなあ」
「なんで勝手に京を出る話しをしたんだ、って… 」

声が震える。
「風華って名前も、勝手に決めたって… 」
笑おうとした。
けれど、笑顔にはならず涙だけが頬を伝った。
「ごめんな… 」
「本当は全部、一緒に決めたかった」
「どこに住むか、どんな家にするかも… 」
「朝は何を食べるとか… 」
「子供ができたら、どんな子に、どんな親になるとか… 」
一つ一つ、未来を口にするたびに、その未来がもう存在しないことを思い知らされ、咲夜は唇を噛んだ。
「… 俺、嬉しかったんだ」
「ゆきの父さんが許してくれて… 」