鏡と前世と夜桜の恋
「やっとゆきと生きていけるって… 」
「これからだったんだよ… 」
声が消える。
「これから… だったのに… 」
咲夜は雪美の手を握った。
「ゆき… 」
その手を、自分の頬に当てる。
「冷たいな… 」
涙がまた落ちる。
「俺の手はこんなに温かいのに… 」
「なあ、一回だけでいいから目、開けてくれよ… 俺のこと呼んでくれよ… さく、って… 」
それでも雪美は眠ったままだった。
咲夜の瞳から、少しずつ光が消えていく。
そして――
「… そっか」
小さく呟いた。
「もう俺の声、聞こえないんだな… 」
その瞬間だった。
咲夜の中で何かが切れた。
悲しみさえ通り越してしまったような、深い静けさ。
やがて咲夜は、ゆっくり顔を上げた。その瞳にはもう先ほどまでの光がなかった。
泣き疲れたからではない。
ただ未来そのものを失った人間の目だった。
「… もう、いいや」
咲夜が呟く。
「ゆきがいないなら、もういいよ」
咲夜は、もう一度だけ雪美の名前を呼んだ。
その声に怒りはなく、ただ疲れ切った悲しさだけがあった。
「待ってて… 」
雪美の頬にそっと手を添える。
「すぐ、そっちに行くから… 」
「咲夜!!」
咲夜の叫び声で慌てて部屋に来た雪美の父の声が響く。けれど咲夜は振り返らなかった。
「風華… 」
小さく笑う。
「ゆきと二人で呼びたかったな… 」
そして――。
咲夜は雪美の顔を見つめたまま、最後の決意をしてしまった。
「… ごめんな、ゆき」
咲夜は雪美の唇にそっと口づける。
「先に行くなって言われてたのに、ごめん… 」
「約束、守れなくて… ごめん」