鏡と前世と夜桜の恋
政条家の次男―― 咲夜の死。
その知らせは、まるで火が燃え広がるように京の町を駆け抜けていった。
誰もが耳を疑った。
あの咲夜が死んだ。
多くの者に慕われていた男の突然の死… そして、その知らせを聞いた女が一人。
陽菜だった。
「… 嘘」
最初はただ呆然としていた。

「咲夜さんが… 死んだ?居ない?」
何度聞いても、現実として受け入れられない。
やがて――。
陽菜の口元が、ゆっくりと歪んだ。
「… 違う、そんなはずない」
「咲夜さんは… 私のものよ」
誰かが慰めようと近づけば、陽菜は狂ったように叫び、手当たり次第に看板を殴り蹴るを繰り返した。
誰も近づけず、誰の言葉も届かない。
陽菜の頭の中には、たった一人の女しかいなかった。
" 雪美 "
「あの子のせいよ」
「ゆきちゃんが咲夜さんを奪った」
「あの女が咲夜さんを殺したのよ!!」
それは根拠などない、陽菜自身が作り上げた妄想… だが、陽菜にとってはそれこそが真実だった。

申又の屋敷に戻っても騒ぎ倒す陽菜
「ゆきちゃんを地獄に堕とす… 」
「あの子を殺して… 私も咲夜さんのところに行くの。そうすれば… また咲夜さんに会える、誰にも取られない… 」
その瞳には、もはや正常な光は残っていなかった。
おすずでさえ、陽菜を持て余していた。
「陽菜、これ以上は私でも揉み消しきれないよ、もう辞めな… 」
「うるさいッ!!」
陽菜は母親にさえ牙を剥いた。
「お母様には関係ない!」
「絶対ゆきちゃんを殺すの!!私から咲夜さんを奪ったあの女だけは… 絶対許さない!!」
屋敷中に、陽菜の怒り狂った叫び声が響き渡った。