鏡と前世と夜桜の恋
――その頃。

雪美の傷は、少しずつ癒えていた。起き上がれるようになり… ただ心の傷だけはなかなか癒えなかった。
政条家では全ての証拠が揃いつつあった。
おすず一家の不正、横領、鈴香や雪美、咲夜、色んな人達を苦しめ揉み消し続けた数々の悪事…
そして――。
かつて弱みを握り、弱者を散々利用した挙句、従わないとなると殺して来た者達の証拠… 全ての真実を握った男は、静かに立ち上がった。
「… 時が来た」
死んだと思われている政条家の長男。

金の柄が入った黒い着物。
鋭い眼差し。
長い黒髪が風に揺れる。
その顔には、怒りを叫ぶような表情はなかった。
むしろ恐ろしいほど冷静だった。
蓮稀は、ゆりね達を連れて極悪非道の家族が全員揃う刻、申又の屋敷へと向かった。
申又の屋敷…
全員そこにいたその時だった。
――バンッ!!
屋敷の扉が開いた。
「… だ、誰だ!?」
申又が振り返る。
そして――。
全員の顔から、血の気が引いた。
「…… 蓮稀… ?」
そこに立っていたのは――。
確かに死んだはずの政条家の長男。
「… 生きて… いたの…かい… ?」
おすずの声が震える。
しかし次の瞬間。
おすずの表情が、驚きから歓喜へ変わった。
「蓮稀様!!!」
「あんたの両親が逆らって蓮稀様のシ体を渡さなかった訳だ。生きてたなら早く言いな、あたしゃ寂しくて寂しくて… 」
おすずはまるで愛しい者との再会を喜ぶように、嬉しそうに微笑む。
だが――。
蓮稀は一歩も動かなかった。
「… 気安く俺の名を呼ぶな」
低く、冷たい声におすずの笑顔が凍りつく。
「俺はもうお前の思い通りには動かない」
蓮稀は一歩、屋敷の中に歩幅を進めた。