鏡と前世と夜桜の恋
陽菜の独り言におすずが青ざめる。
「陽菜… も、もう辞めな!」
「うるさい、うるさい、うるさい、ゆきちゃんを地獄に送るの!」
蓮稀が目の前にいてもお構いなし、陽菜が狂ったように笑い、屋敷中に聞こえるように怒鳴り叫んだ。
「私から咲夜さんを奪ったんだから!!あの子は絶対許さない!」

「あの子を地獄に送って… 私も死ねば… 咲夜さんと一緒になれる、取り戻せるの!!! 」
「陽菜お黙り!」
誰も陽菜を止められなかった。
もはや悲しみでも、嫉妬でもない。咲夜を失った現実から逃げるように、陽菜の心は壊れていた。
蓮稀はそんな陽菜を、しばらく何も言わずに無言で見つめた。
そして――。
「… 哀れだな」
それだけ言った。
同情でもなく怒鳴ることもしない。ただ、もう相手にする価値すらないというような冷たい眼差し。
蓮稀は背を向けた。
「せいぜい残された時間、震えていろ。政条家はお前達を全員逃がさない」
そう言い残し蓮稀は屋敷を後にした。
閉じていく扉。
その向こう側で――。
「陽菜そんなこと言うな、アイツ等の前で認めているようなもの… 」
「うるさい、ちゃんとあの子を縛りつけてなかったくせに!!私から咲夜さんを取るな、取るな、取るな、返せ… 」
陽菜は申又に怒鳴ったその後、異常な勝ち誇った笑い声が屋敷中に響いた。

「ゆきちゃんすぐに消してあげる… 」
その声を背中に聞きながら蓮稀は振り返らなかった。
迷いはない。
自分が幸せにすると誓った・鈴香。
弟の咲夜、そして雪美。
沢山の人を苦しめた者達を今度こそ自分の手で終わらせる… それが、死んだと思われていた男 " 蓮稀 " が選んだ制裁だった。