鏡と前世と夜桜の恋
数日後…
夜の御屋敷は、不気味なほど静かで、雪美は一人、部屋で灯りを見つめていた。
そのとき――
ガラッ。
突然、障子が開いた。
「… え?」
振り向いた瞬間。
黒装束の男が、音もなく部屋へ入り込んでいた。顔のほとんどを覆い、手には小刀… 雪美の身体が凍りつく。
「…だ、誰…!?」

男は低い声で言った。
「お前を殺す令が出た」
「… え?」
一歩、また一歩、男が近づいてくる。
雪美は後ずさった。
「待って… 私は何も… 」
小刀が月明かりを反射する。
そして――
男が雪美へ飛びかかった。
「嫌ぁっ!」
その瞬間だった。
「娘に触れるな!!」

ガッ――!
雪美の父親が背後から忍びの男を羽交い締めにした。
「お父様… 」
「雪美!」
父親の顔には、今まで見たことのないほどの覚悟が浮かんでいた。
「お前は何もしていない、早く逃げろ!」
「お父様を置いてなんて…」
「良いから早く行け!」
父親の怒鳴り声に、雪美の肩が震える。
そのときだった。
ふと窓の外を見ると
月明かりの中に蓮稀が立っていた。
黒い着物に風に揺れる長い黒髪… そして雪美をまっすぐ見つめる鋭い眼差し。
蓮稀は何も言わなかった。
ただ小さく頷いた。
雪美は父親を見る。
雪美の父親もまた、静かに頷いた。
「… 早く行くんだ」
涙をこらえながら雪美は窓へ駆け寄り、蓮稀は手を伸ばす。
「雪美!」
その手を掴んだ次の瞬間
二人は屋敷の外へ飛び出した。

「追え!!」
「政条の息子と逃げたぞ!」
「女を逃がすな!」
「殺さねば、我らが滅びる!!」
屋敷の中から次々と忍びが現れ、雪美の顔から血の気が引いた。