鏡と前世と夜桜の恋

「お父様… やだ蓮稀… 怖い… 」

蓮稀は雪美の手を強く握った。

「大丈夫だ、俺から離れるな」

二人は夜道を走った。

だが、雪美の足は次第に動かなくなりしゃがみ込む… 蓮稀は振り返った。

「背中に乗れ」

「でも… 」

「早く」

雪美は震える身体を背中に預け、蓮稀はそのまま走り出した。



月明かりのない山道を。

追手の声が、少しずつ遠ざかっていく。

やがて二人は、朽ちかけた小さな小屋へ逃げ込み、蓮稀は雪美を干し草の上にそっと降ろした。

「大丈夫か?」

羽織を脱ぎ、雪美の肩へ掛ける。

雪美は震えながら羽織を握った。

「な、何で…」

震える目には涙が溢れる。



「何で私が殺されないといけないの… 」



蓮稀は答えられなかった。

ただ、険しい顔で外を見ている。

遠くから声が響いた。

「どこへ行った!!」

「必ず探し出せ!」

「女を殺さねば、我らが滅びるんだ!」

雪美は蓮稀の袖を掴んだ。

「蓮稀… 」

その瞬間外から別の叫び声が聞こえた。





「や、辞めてくれ… 」

「殺さないで… 」

「助けて… 助け… 」

雪美は思わず小屋から飛び出て陰から声のする方を見た… そこには村人を容赦なく残虐する忍びたち。







「やっ… 」

雪美の口から悲鳴が出そうになった。

蓮稀が咄嗟に雪美を抱き寄せる。

「雪美、見るな!」



雪美は蓮稀の胸に顔を埋めた、ガタガタ震えて身体の震えは一向に止まらない。

「な、何が起こってるの… 」

「大丈夫だ」

「み、みんなが… 」

「今は俺を見ろ」

蓮稀は雪美の顔を両手で包み顔を近付けた。

「外を見ず、俺だけを見ろ」

雪美は涙で濡れた瞳で蓮稀を見つめ距離感に頬を赤くする。


「さ、さくが… 」



その名を聞いた瞬間、蓮稀の表情が揺れた。

「… そうだな」

「私には… さくがいるの… !!」

「分かっている」

蓮稀はそう言って、雪美を更に強く抱き締めた。

しかし――

二人の間には、言葉にできない感情が渦巻いていた。

< 308 / 340 >

この作品をシェア

pagetop