鏡と前世と夜桜の恋

蓮稀は弟の咲夜を想っている。

雪美も咲夜を愛している。

それなのに…

この極限状態の中で、二人の距離だけが異様なほど近く、雪美は蓮稀の胸に顔を伏せる。

「… 蓮稀… どうして… 今、私を抱き締めるの… 」

蓮稀は答えなかった。

ただ、雪美を守るように腕を回した。



小屋の外では雪美を探す声が聞こえる…

「蓮稀… 」

雪美は震える声で、その名を呼んだ。

返事はなかった。

ただ、外から聞こえる荒い足音と、押し殺されたような人々の声だけが、夜の闇に響いていた。

そのとき――

「たっ、助けてくれ… !」

突然、村人のものと思われる悲鳴と叫び声がした。



雪美は思わず顔を上げると目の前で、ひとりの村人が忍びに斬られる瞬間を見た。

「――っ!」

声にならない悲鳴が喉まで込み上げる。

次の瞬間、蓮稀の腕が雪美を引き寄せ、雪美の唇を自分の唇で塞いだ。

「……!」

突然のことに雪美は目を見開き、すぐに蓮稀の胸を押し身体を離した。







「な、何を… 」

驚く雪美。

「言ったでしょ!私には… さくがいるの… 」

蓮稀は何も言わず、ただ雪美を見つめていた。

その眼差しは、いつもの冷静なものとは違っていた。苦しさと、抑えきれない想い、そして外から気を逸らさせ守りたいと言う感情が入り混じっている。

「今は… 俺だけを見ろ」

「… 蓮稀」

再び抱き寄せられる。

雪美の頭は混乱していた。

外が怖い、現実逃避したい、けど… 咲夜のことも忘れてはいけない。




それなのに――

蓮稀の腕の中にいると、不思議なほど恐怖が遠のいていく。

「さくが… 」

蓮稀は答えなかった。雪美は涙を堪えながら、さくの名をまた呼んだ。



外では、まだ村人の悲鳴が聞こえている… 蓮稀は雪美の震える手を取った。

「怖いよな」

雪美は小さく頷く。

「… 私狙われてるの?私が行かなきゃ周りの人達が… 」

蓮稀は答えず、雪美の頬にそっと手を添えた。

「… 頼むから、今だけは何も考えるな」

その言葉に、雪美は目を閉じた。

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