鏡と前世と夜桜の恋
再び二人の距離が近づく。
雪美は一瞬ためらうも離れられなかった。雪美の手が、ためらいながら蓮稀の着物を掴んだ。外では風が吹き、小屋の隙間から月明かりが細く差し込んでいる。
蓮稀の指が雪美の髪をゆっくり撫でる。
「… 雪美」
その声に、雪美は顔を上げた。
二人の額が触れ、そして、もう一度唇が重なった。

それは逃げ場のない夜に縋るような、長い口付けだった。
やがて蓮稀は雪美の肩に掛けていた羽織をそっと外した。
雪美は恥ずかしそうに目を伏せる。
「… 蓮稀」
「嫌なら、言ってくれ」
雪美はしばらく黙り込み… そして、蓮稀の胸元にそっと額を預けた。
「… そばにいて」
蓮稀は何も言わず、雪美を何度も何度も優しく抱いた。
干し草が静かに音を立てる… 灯りはいつしか消え、二人の求め合う影だけが小屋の壁に重なった。
外では、忍びの足音が行き交う。
夜が深くなる。
そして――
二人だけの甘い時間が過ぎていった。
遠くから何度も何度も悲鳴が聞こえ、二人はその度、同時に顔を上げる。
外では、まだ忍びたちの声がしている。
「女を探せ!」
「近くにいるはずだ!」
「逃がすな!」
雪美は思わず蓮稀の着物を握った。
「やっぱり私行かなきゃ… お父様だって… 」
「大丈夫だ」
「でも… 」
「雪美には俺がいる、ゆりね達もあの者達の特定を急いでいる」
その言葉に雪美の瞳から涙が一筋こぼれ、二人は干し草の上に身を寄せた。
蓮稀の手が雪美の頬に触れる。
「… すまない」
蓮稀は苦しそうに目を伏せた。
「今の俺は… 自分でも何をしているのか分からない」
雪美は蓮稀を見つめる。
「… 狡いよ、蓮稀は」
その言葉に、蓮稀は申し訳ない気持ちで雪美を強く抱き締める。
「雪美… 」
「……。」
「雪美… 」
何度も、雪美の名前を呼ぶ、雪美は蓮稀の胸に顔を埋めた。
けれど――
その静かな時間を切り裂くように、遠くから再び悲鳴が聞こえ、雪美の身体がびくりと震える。