鏡と前世と夜桜の恋
その頃蓮稀は…
好きなのにどうしてあんな言葉を選んだんだろう、雪美の笑顔を見る度胸が痛む。弟の幸せを願うはずが願うほど自分の心が軋む。
雪美を譲ると決めたのは俺だ。兄として当然の選択のつもりだった。けれど、こんなにも苦しいものだとは思わなかった。
彼女の笑い声が遠くで響く度、その声に混ざれない自分が情けなくて悔しくて、それでも顔には出せない。
“ 二度と俺に近寄るな ”
そう言って背を向けたのは優しさなんかじゃない、自分の弱さ、自分の想いを貫く勇気がなかっただけ。
今も胸の奥では雪美の名を呼んでいる。
もう届かないと分かっていながらこの想いに蓋をして今日も平然としたふりをする。
咲夜に雪美を紹介したのは俺、咲夜にと思ったから… 今更俺がなんて言えるわけがない。2人に幸せになって貰いたい、蓮稀は空を見上げる。目頭が熱くなるのを感じた。
胸の奥で何かが軋む… こんな形でしか雪美に想いを伝えられない自分が情けなくて仕方なかった。
俺の言葉に対して雪美の瞳が震え、声にならない声で " なんで… " と言っていたが蓮稀は振り返らなかった。
背を向けたまま拳を強く握りしめる… その手の中には、掴めない想いと壊れそうな自分自身があった。
元々は変な小娘。
5歳も歳下であり、咲夜に紹介してやろうとただそれだけの感情だったのに…
いつの間にかこの感情が俺の胸を蝕んだ
(これでいい、これでいいんだ)
自分に言い聞かせる度、胸の奥で何かが崩れていく。雪の降る音が静かに響く中、蓮稀の影はゆっくりと白の中に溶けていった。