鏡と前世と夜桜の恋
この事件、忍び達の出所を探る必要などなく誰が差し向けたのか、すぐにわかった。

あの夜、陽菜の狂ったような叫び声は、夜の静けさを引き裂き、村中に響き渡っていた。
「ゆきちゃんさえいなければ… 咲夜さんは私のものだったのにぃい!!」
その発狂を聞いた村人達は皆、口々に囁いた。
―― また、あの一家か。
―― 政条家に取り憑く、恐ろしい一家だ。
―― あの者達は普通ではない。
ーー まるで異常な、宗教崇拝者てはないか。
おすず達が政条家に執着していることは、もはや村中の誰もが知るところとなっていた。
そして、その執着はついに関係の無い人の命までを奪った。
逃げ惑う村人。
倒れた者。
二度と起き上がらなかった者。
その光景は、雪美の心に深く刻まれていた。
「… お父様は!!?」
雪美が最初に口にしたのは、自分のことではなく父の安否。
やがて、ゆりね達から知らされた。
雪美の父もまた、ゆりねの仲間達に保護され無事に長崎へ戻ったという。
「そう… 」
その言葉を聞いた瞬間、雪美は胸を撫で下ろした。
父は生きている。
それだけが、今の雪美にとって唯一の救いだった。
けれど――。
死んでしまった村人達は、戻ってこない。
どれほど祈っても、どれほど謝っても失われた命は、二度と帰ってこない。
雪美は俯いた。
自分が狙われた、自分を巡って争いが起きた。自分を憎む者達が、何の罪もない村人達まで巻き込んだ。
そう考えるたびに、胸の奥が締めつけられた。
「… 私のせいで… 」
小さな声だった。
けれど、その言葉を蓮稀は聞き逃さなかった。
「雪美」
静かな声で蓮稀は真っ直ぐ雪美を見つめていた。
「雪美は何もしていない」
「でも… 私がいなければ… 」
「違う」
蓮稀は、雪美の言葉を遮った。
「お前のせいではない」
その声には、迷いがなかった。
蓮稀もまた心の中で自分を責めていた " 自分があの一族の言いなりを辞めたから " 辞めなければ雪美を傷付けることはなかった。