鏡と前世と夜桜の恋

「鈴香ちゃんから預かってたの… 私、ずっと忘れてて… 」

蓮稀は文を受け取った。

そして――。

その文字を読んだ瞬間、表情が変わった。

「……。」

蓮稀は何も言わずにただ、文をじっと見つめている。

「蓮稀?」

しばらくして… 蓮稀は何かを思い出したように立ち上がった。






「… まだ夜は明けていない、雪美は寝ていろ」

「え?」

蓮稀はそれだけ言うと、雪美の部屋を飛び出していった。

向かった先、そこには古びたものがひっそりと残されていた。

見すればただの古い帳面

けれど――。

蓮稀にはわかっていた。これは、鈴香が残した今でいう " 日記帳 " のようなもの。


蓮稀はそれを手に取り、ゆっくりと最初の頁を開く。

一枚、また一枚…

頁を捲るたびに、蓮稀の表情から感情が消えていった。

そこに書かれていたのは――。

鈴香がおすず一家から受け続けていた痛々しい数々の罰、そして亡くなるまでに鈴香の身に起きた記録だった。







罵声。

侮辱。

脅し。

逃げようとしても逃がしてもらえなかった日々。

人として扱われなかったこと。

そして――。

鈴香がされるまでに受けた、想像を絶する拷問。

頁には、鈴香自身の手で、一つ一つが残されていた。


逃げて助けを求めたこと。

それでも誰にも届かなかったこと。



何度も耐えようとしたが最後は命を奪われた。

そして、蓮稀が愛していたのは雪美だと言うことも… 鈴香は気付いていた。

それでも蓮稀からの縁談を受けた。

だからこそ、雪美が自分と同じ運命にならぬよう注意して幸せにしてあげて欲しいと鈴香の願いが書かれていた。


蓮稀は、黙って頁を捲り続けた。


最後の頁まで読み終えたとき、蓮稀の手は強く帳面を握り締めていた。

怒りを叫ぶことも誰かを罵ることもしなかった。

ただ――。

胸の奥で、静かな怒りが燃えていた。

「… 鈴香」

小さく名前を呼ぶ。

もちろん、もう返事はない。

どれだけ呼んでも鈴香は戻ってこない。



けれど、鈴香は最後まで自分が受けた苦しみとその中で生きた足跡を残していた。

誰かに知ってほしかったのか、自分が何をされたのか、なぜ死ななければならなかったのか。

そして――。

自分のシを、全て隠蔽され、なかったことにはしてほしくなかったのだろう。

蓮稀は帳面を胸に抱いた。



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