鏡と前世と夜桜の恋

長崎、町奉行所。







重々しい空気に包まれた白洲には、奉行の前に膝をつくおすず一家の姿があった。

おすず、陽菜、申又、藤川… そして使いの者たち。

かつて罪のない村人を始め、政条家を思うがまま脅し、鈴香と雪美を人質に苦しめた者たちである。

彼らの悪事は誰もが知り、隠しようがなかった。



蓮稀が町奉行所へ出した証拠は、鈴香が受け続けた数々の罰、咲夜が命を落とすまでの記録、そしておすず一家が裏で手を回していた悪事が、克明に記されていた。

奉行は帳簿を閉じ、白洲に響き渡る声で告げた。


「これほどまでに非道な所業を重ね、罪なき者の命を奪い、なおも己の罪を認めぬとは… 」



大きな溜息を吐く奉行。



「もはや情けをかける余地もない」

おすずの顔から血の気が引いた。

「何を言い出すんだい、私は愛する蓮稀様のため、政条家のためを思って… 」

「黙れ!」

奉行の一喝におすずの声が途切れた。

「… 政条家のためだと?ならば、この全ての証拠となる事実は何と申す」



「蓮稀様が生きていらしたから良かったものの… 政条家の長男を殺そうとしたことはどう説明する?さらに次男を監禁し、村を襲わせた企みは何と申す。無実の人間を数多に殺め… 自分の欲のままに行動し数々の悪事を隠蔽して来た、証拠はすべて揃っておる。今さら言い逃れなど許されぬ!」



陽菜は震える手で白洲の砂を握りしめた。



「そんな… 私はただ咲夜さんのことが… 」

「まだ言うか!その名を口にするな!」

奉行の声が鋭く響いた。

「己の欲のために他人を平気で傷つけ、沢山の命を踏みにじった。そなたの執着がどれほどの悲劇を招いたかまだ分からぬか!」

陽菜の唇が震えた。




陽菜は言い逃れできると信じていた。

咲夜を失った悲しみも雪美への憎しみもすべて自分の望みを叶えるために母上なら正当化できると…

だが、目の前に突きつけられた裁きは、どれほど泣き叫ぼうとも覆らない… やがて奉行は手元の裁許状を広げ、白洲にいる一家全員を見据え、最後の沙汰を言い渡す。
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