鏡と前世と夜桜の恋

「あんな男のどこが良いかわからない。咲夜への執着に囚われて雪美を憎み、追い詰めたのはお前だろ! 過去のことももう終わった話しだ!なんで、今更… 」

「… 申又、お黙り!」

これ以上罪が重くなるのを恐れ、おすずの叫び、怒鳴り声が響く… だが、申又はもう誰の顔も見ようとはしなかった。


その様子を一人黙って見ていた藤川は、奥歯を強く噛みしめ着物の裾を握り、どうにか平静を装おうとしていた。

だが、奉行の前に並べられた証拠の数々を思い出すたび、その顔からは余裕が消えてゆく。

「… お待ちいただきたい」

藤川は、ゆっくりと顔を上げた。


「この裁きには何かの手違いがあるはず。自分は長年商いに携わってきた身であり町の者たちにも顔が利く、今ここで命を奪われるような罪人では… 」

「藤川」

奉行が、その言葉を遮った。

「そなたの名が記された帳簿も、証言も、すでに確認しておる」

藤川の表情が凍りついた。







「… 帳簿、でございますか… 」

額から冷や汗が流れ落ちる。

「じ、自分はただ金に困っていただけにございます!借金に追われ、どうにもならぬところを…おすずが… !」

言い訳を重ねようとする藤川の声は、次第に震えを増していった。

もともと藤川は借金まみれの身であった。


返しても返しても膨らんでゆく借金。

金を工面するためなら裏ではどんな手段でも関係なく手を染める男だった。

だが、どれほど金に困っていたとしても… おすずの提案に乗り、犯して来た数々の罪が消えるわけではない。

「借金があったからと申して、己の罪が許されるとでも思うておるのか?」


奉行の冷たい声に藤川は言葉を失った。


「ち、違う… 自分はただ政条の長男が憎かったのだ… 」

藤川は乾いた笑いを漏らした。

「どれほど金を積もうと、望もうと、蓮稀はわしの愛を眼中には入れなかった。あの澄ました顔を見るたび、腹の底が煮えくり返ったわ!!」

奉行は何も答えなかった。
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