鏡と前世と夜桜の恋

「相手にして貰えない妬み、乱れた蓮稀の姿を毎晩想像していたある日、文字にお越し世に出した。それが飛ぶように売れた。わしには人の欲望を文章にすることなど造作もない。己の欲を満たし、女は綺麗な生き物の乱れた姿を好む、金を稼ぐにはまことに都合のよい道具… 」

藤川は唇を歪め低く続けた。


「あの色男の乱れ姿を思い浮かべると筆が進んで仕方がなかった。女にしか心を向けぬ、権力も地位もある政条家の長男がもしも誇りと名誉までも失い、誰にも見せぬ乱れた姿を晒したならば、そう考えるだけでぞくぞくしたものよ… 性に年齢など関係ない。わしは性道具として蓮稀を手に入れたかった… 」


「蓮稀がわしを拒むことが何よりも許せなかった。わしの欲望など歯牙にもかけず、女を愛し、女を守り、己の信じる道を真っ直ぐ歩む… その姿が憎くて憎くて仕方がなかった!!」

藤川の声が、次第に荒々しくなった。

「だからこそ、蓮稀の平然と生きてるあの余裕さを壊してやりたかった!!!」


「わしを見下し、拒否したあの小僧に後悔させてやりたかっただけなのに… 」

奉行は、冷ややかな眼差しを向けた。

「… それがお前の罪の言い訳か」

藤川の顔が引きつった。

「な、何が悪い… 」

「己の欲望を満たせなかった腹いせに、他人を傷つけた。それだけのことだろう」

「貴様…!」



藤川は歯を食いしばった。

言い返そうにも、奉行の言葉を覆すことはできず、やがて藤川は力なく笑った。

「… 蓮稀は最後まで、わしのことを見ようとしなかった。代わりの男を探し、あてがってもやはり物足りず、わしはずっと苦しんで来た、蓮稀… わしは死んでもお前だけは許さぬ…!」


藤川の言葉に誰もが負け犬の遠吠えだと鼻で笑った。プライドだけは誰よりも高い藤川には何よりも屈辱だった。

藤川の憎悪溢れたその言葉だけが、刑を言い渡されたその場に虚しく響き続けた。

「連れてゆけ」

命令を聞き、藤川は抵抗した。



「い、いやだ、まだ死にたくない… 」

「わしがあんな小僧に負けただと?あり得ない、自分はこんなところで終わる男では… 」

耳を傾ける者はいなかった。

「鈴香が受けた仕打ちについてもそなたが関与した記録が残されておる。さらに数々の横領、村を襲わせる企てについても無関係とは申せまい」

藤川は口を開いたまま、言葉を失った。
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