鏡と前世と夜桜の恋
雪美が耳に髪をかけ、花を見つめながら微笑む。
その仕草を、咲夜は黙って見ていた… やがて彼の目が、すっと細められる。
「… ゆき」
「なあに?」
「こっちを見ろ」
低い声に促され、雪美が顔を向けた。
次の瞬間。
「えっ… ちょっ!// 」
咲夜に肩を抱かれ、そのまま柔らかな草の上へ押し倒され、視界いっぱいに咲夜の顔が迫る。
普段の、少し意地悪で笑ってばかりいる顔ではない。
切れ長の瞳が真っすぐに雪美を捉え、唇には余裕を含んだ笑みが浮かんでいた。
「さ、さく… ?」
「… いいだろ」
わざとらしく耳元で囁くような声。
その響きに雪美の心臓が大きく跳ねた。
唇が、そっと重なる。
「だ、だ、だだだだ、だめだってば!」
雪美は慌てて咲夜の肩を押したが、咲夜はすぐには離れなかった。
唇が離れたほんのわずかな隙間から、咲夜が愉快そうに目を細める。
「なんだ。さっきまであんな可愛らしく笑ってたくせに… 」
「そ、それとこれとは違うでしょう // 」
「そうか?」
また、口づけ。
「さ、く… !」
抗議する雪美の声は、咲夜の唇に遮られてしまう。
咲夜は雪美の反応を楽しむように、わざと一度だけ離れた。そして咲夜は懐から小さな飴を取り出すと、何も言わず自分の口へ放り込んだ。
「… ん?」
雪美が不思議そうに見つめたその時。
咲夜の顔が再び近づいた。
「ん… っ?」
思いがけず口移しで渡された飴に、雪美は目を見開く。
甘い味が舌の上に広がった。咲夜はようやく顔を離すと、何事もなかったかのように笑った。
「しないよ。今は」
「… な、なにを?」
「さあな」
「もう!さくってば!// 」
雪美が真っ赤になって睨むと、咲夜は満足げに立ち上がった。
「帰ろう、近くまで送る」
差し出された手を、雪美はおずおずと取った。
歩き出してからも、口の中に残る飴の甘さが消えない… 雪美は頬を緩め、こっそり隠れて幸せそうに飴を舐めていた。