鏡と前世と夜桜の恋

―― 美味しい。

雪美が頰を緩め、にやにやしながらそんなことを考えていたときだった。

「ゆき」

「ん?」

「抱きたい」

「… えっ?//」

あまりにも真っすぐな言葉だった。

雪美は足を止めた。

咲夜は、冗談を言っている顔ではなく夕陽を背に、まっすぐ雪美を見つめている。

「… 嫌か?」


先ほど迄の余裕ある声音とは違う、ほんのわずかに真剣な響き。

雪美は俯き、耳まで熱い… 小さく首を横に振ったあと恥ずかしそうに頷いた。

それを見た咲夜が、ふっと笑う。

「… ずるいよな、ゆきは」

「え?」

「そんな顔をされたら我慢できなくなるだろ」

そう言って咲夜は雪美の手を取った。





二人が向かった先は、京にある政条家の別荘の古びた蔵… 中へ足を踏み入れた雪美は、思わず目を見張った。







「ここは… !?」

蔵の中は、想像していたものとはまるで違っていた。

片隅には小さな机と座布団。壁際には書物や道具が整然と並び、窓から差し込む夕陽が室内を淡く染めている。

誰にも邪魔されない小さな隠れ家… 身を隠すため、咲夜が住む古いログハウスとは全然違う。誰も住んで居ない、政条家の正式な土地はまるで子供の頃に夢見た秘密基地のようだった。



「すごい!」

雪美が目を輝かせて振り返ると咲夜は得意げに笑った。

「俺が一人になりたい時に使う、秘密の場所だ」

「さくの秘密基地なの?」

「ああ。誰にも教えたことはない」

「えっ!じゃあ、どうして私に… ?」

咲夜は答えず雪美の顔を見つめた。

そして、ゆっくりと歩み寄る。

「… お前だからだよ」

その言葉に、雪美の胸がきゅっと締めつけられた。

次の瞬間、背後から腕が回される。
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