鏡と前世と夜桜の恋
「ですが… 雪美がこれから先、誰と生き、誰を想い、どのような人生を歩むのか。それを決めるのは、俺でもお父上でもないはずです」
「蓮稀… 」
「俺は、雪美の心を縛りたいのではありません。ただ… 」
言葉が途切れた。
蓮稀の脳裏に、咲夜の面影がよぎった。
雪美に向けられていた、あの優しい眼差し。
雪美の名を呼ぶときの柔らかな声。
そして、もう二度と聞くことのできない笑い声…
咲夜は、雪美を愛していた。誰よりも深く、誰よりも真っ直ぐに。
その想いを蓮稀は知っていた。
だからこそ自分の願いが、どれほど重いものなのかもわかっていた。
弟の妻だった人を自分の妻に迎えたい… その願いは決して簡単に許されるものではない。
咲夜への裏切りではないのか、雪美の悲しみにつけ込んでいるのではないか。
そんな思いが何度も胸をよぎった
けれど、雪美が涙を流しながら生きようとしている姿を見るたび蓮稀は気づかずにはいられなかった。
自分も雪美を失いたくないのだと。
咲夜の代わりになりたい訳じゃなく、咲夜の場所を奪いたいのでもない。
ただ、この先の長い人生を、雪美の隣で歩みたい。
悲しい日は共に泣き、笑える日は共に笑い、いつか雪美が咲夜の思い出を語るときには誰よりも深く、その想いを理解できる人間でいたかった。
咲夜を忘れさせるのではなく。
咲夜を愛した雪美ごと受け止めたい。
「俺は、雪美を幸せにしたいのです」
その言葉を口にした瞬間、蓮稀の胸に、静かな覚悟が定まった。
「咲夜が生きていたら、咲夜は生涯をかけて雪美を守ったでしょう。俺は、弟が愛した人を守り、幸せにしたい… 」
蓮稀は、父を真っ直ぐに見つめた。
「俺自身が… 雪美のことを心底愛おしいと思っているのです」
その言葉が、雪美の胸を強く打った。
けれど、その続きを聞く前に、父の声が再び響いた。
「だが、お前といたら雪美は…!」
「お父様!」
雪美は思わず襖を開け放っていた。
「雪美… 」