鏡と前世と夜桜の恋
雪美と彼岸花を眺めたあの日から季節は一歩だけ深まり朝靄はどこか湿り気を帯びはじめていた。
その朝、咲夜は胸の奥に沈殿する不安を押し隠すようにゆっくりとまぶたを上げた。
「… 眠っ」
寝床から身を起こすと縁側の向こうから弾ける声。
「さくー!」
雪美の声は朝の空気さえ明るく変える。
雪美の無邪気さは武器でもあり救いでもあった。
「団子食べに行くか?もう開いてるかな… 」
「行く!けど… ねえさく、さっき蓮稀お兄ちゃんとすれ違ったんだけど鈴香がって大慌てで… 」
雪美はまだ何も知らずに咲夜を見上げる。知ればゆきを傷付けてしまう… それが咲夜にはひどく残酷に思えた。
" 嫌な予感しかしない "
雪美が告げた蓮稀の行く先は、鈴香のいる牢屋敷…
蓮稀は貼り出された“ 鈴香死亡 ”の札を見た瞬間、胸の内側に熱した針を突き刺された様な痛みを覚えた。
呼吸が浅くなり景色が遠のく。
これは嘘、嘘であってくれ、おすずがいつもの手で俺を縛るために仕組んだだけだ。

すれ違った雪美の存在すら霧の向こうへ消えてしまうほど、蓮稀の思考は鈴香で埋め尽くされていた。
「蓮稀!」
咲夜の声で蓮稀は少しだけ現実に引き戻された。
「蓮稀お兄ちゃん… 鈴香ちゃん何かあったの?」
雪美の声はか細く震えている。
蓮稀深く沈む水の底から言葉を掬い上げる様に答えた。
「… 鈴香は、牢に閉じ込められていたんだ」
雪美は悲しい予感に押しつぶされそうな顔で咲夜の袖を握る。咲夜はその手を包み込み、短く " 大丈夫 " と告げた。
その朝、咲夜は胸の奥に沈殿する不安を押し隠すようにゆっくりとまぶたを上げた。
「… 眠っ」
寝床から身を起こすと縁側の向こうから弾ける声。
「さくー!」
雪美の声は朝の空気さえ明るく変える。
雪美の無邪気さは武器でもあり救いでもあった。
「団子食べに行くか?もう開いてるかな… 」
「行く!けど… ねえさく、さっき蓮稀お兄ちゃんとすれ違ったんだけど鈴香がって大慌てで… 」
雪美はまだ何も知らずに咲夜を見上げる。知ればゆきを傷付けてしまう… それが咲夜にはひどく残酷に思えた。
" 嫌な予感しかしない "
雪美が告げた蓮稀の行く先は、鈴香のいる牢屋敷…
蓮稀は貼り出された“ 鈴香死亡 ”の札を見た瞬間、胸の内側に熱した針を突き刺された様な痛みを覚えた。
呼吸が浅くなり景色が遠のく。
これは嘘、嘘であってくれ、おすずがいつもの手で俺を縛るために仕組んだだけだ。

すれ違った雪美の存在すら霧の向こうへ消えてしまうほど、蓮稀の思考は鈴香で埋め尽くされていた。
「蓮稀!」
咲夜の声で蓮稀は少しだけ現実に引き戻された。
「蓮稀お兄ちゃん… 鈴香ちゃん何かあったの?」
雪美の声はか細く震えている。
蓮稀深く沈む水の底から言葉を掬い上げる様に答えた。
「… 鈴香は、牢に閉じ込められていたんだ」
雪美は悲しい予感に押しつぶされそうな顔で咲夜の袖を握る。咲夜はその手を包み込み、短く " 大丈夫 " と告げた。