鏡と前世と夜桜の恋
「咲夜、俺はどうすれば… 」

初めて蓮稀が弱さを見せた。その声音には、子どもが迷った時のような震えがあった。

咲夜はそっと蓮稀の拳を包み込んだ。

「復讐するなら俺も戦う。雪美だって例外じゃない… 蓮稀だけが壊れる道は絶対に歩かせない」

蓮稀の目からぽたりと血に似た涙が落ちる。


「咲夜お前まで… 」

「当たり前だ」

その瞬間、蓮稀の中で張りつめていた“ 何か ”が、音を立てて緩んだ。

狂気は消えていない。
怒りも消えていない。

「…咲夜、そう言えば雪美はどうした?」

蓮稀の声は変わらず低い、咲夜は数秒言葉を失ったまま蓮稀の顔を見る。


「は、蓮稀が心配で… 」

その答えを聞いた瞬間、蓮稀の眉がぎゅっと寄り肩が震えた。

「何故あの様な場所に雪美を置いて来た!!」

蓮稀の怒号が空気を切り裂く。

「藤川達が戻ってくる気配があったんだ、雪美を連れていたら間違いなく捕まってた。だから… 」

「だからって!!」


蓮稀は咲夜の胸元を掴み近くへ引き寄せた。

「鈴香のことを知ってしまった雪美がどれほど動揺しているか… お前が1番わかっていたはずだ!!」

咲夜は唇を噛んだまま目を伏せる。

「わかっていた。でも、俺は蓮稀も…」

「言い訳はいらん!」

蓮稀は咲夜を突き放し来た道を引き返す。


「雪美は… あの子は、嘘をつかれたと感じたら逃げる癖がある。1人になどしてあの親子に見つかったら… 」

蓮稀の声が震えた、怒りというより恐怖だ。咲夜もその震えに気付き息を呑む。

「… 探すぞ、必ず見つける」

2人は目を合わせそのまま同時に駆け出した。胸の底に冷たい焦燥を抱えたまま…
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