鏡と前世と夜桜の恋
蓮稀の一言に宿る殺意は凶器より鋭かった。

「藤川も… 陽菜も… おすずも… 申又も… 誰一人、生かしておかない… 」

その声は温厚な “ 蓮稀 ” のものではなかった。

「… 蓮稀!!」

その頃、咲夜は全力で走った。息が切れても構わず、蓮稀の影を追いかける…


やがて、膝をつき血のついた拳を握りしめる蓮稀を見つけた。

近付く背中はいつもより小さく、痛々しく、今にも崩れそうで。

「蓮稀… 」

咲夜が声をかけると、蓮稀はゆっくり振り返った。瞳の奥には一切の光がない。ただ深い深い闇だけが満ちていた。

「… 咲夜、来るな」


蓮稀の言葉は拒絶というより“これ以上近づいたらお前まで巻き込んでしまう” そんな警告にも近かった。

咲夜は一歩、更に近づいた。

「鈴香を守れなかったのは… 蓮稀の責任じゃない」

「違う!俺が… 」

「蓮稀、俺も全部… 知っていた。鈴香が囚われた時も… どれだけ助けを求めていたかも… 」


蓮稀の肩が震える。
怒りではない悔しさと自分への絶望で。

「俺は… 鈴香を愛し幸せにすると誓った。鈴香を守る為なら… どんな汚れも呑んだ… なのに…っ!!」

咲夜はその目を見て気づいた。

これは怒りだけではない。蓮稀は、鈴香の死を“ 自分の罪 ”だと受け取っている。


だから壊れている
狂気へ飲まれかけている。

咲夜は迷わず蓮稀の肩を強く掴んだ。

「蓮稀、鈴香は… お前のこと、最後まで信じていた。お前が救おうとしていたこと、ちゃんと知っていた。そんな鈴香が… お前が壊れることなんて望むはずがない」

蓮稀の呼吸が止まり怒りの熱が、わずかに揺らいだ。
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