鏡と前世と夜桜の恋
前を見ず走る雪美とぶつかったのは、先程蔵を出て行った咲夜だった。
「ど、どうした… そんなに痛かったか!?」
女の涙は苦手だ。
尻餅をついたまま泣き止まない相手に慌てる咲夜はどう対応して良いのか分からずとりあえず立たせて頭を撫でる。
「ほら、鮎の塩焼き買ってやるから泣き辞め!」
「…お団子がいい」
鮎の塩焼きは咲夜の好きな食べ物。泣きながらでもちゃんと食べたい物をリクエストする雪美の言葉を聞いた咲夜は
「そうか、団子が好きなんだな!少し待ってろ!」
と、言い残してどこかに行ってしまった。雪美は泣きながらも言われた通り咲夜が戻って来るのを待つ…
ーー 数分後。
両手いっぱいの団子を買って戻って来た咲夜は、まだ泣いている雪美の顔の前に差し出す。

「ほら団子だ!泣き止め!」
団子を見た雪美は泣き止み目を輝かせ嬉しそうに頬張る…
「美味いか?」
「うん!」
幸せそうな雪美は泣いていた事すら忘れて大量の団子をあっという間に完食。
「家はどこだ?」
「帰りたくないぜーったい嫌!父上も母上も嫌い!」
顔を背けふいっとした雪美を見た咲夜は困った表情を浮かべる。
「…それに金貸しの娘とは仲良くしない方がいいんだよ」
どうせ私は金貸し屋の娘、完全に捻くれ状態の雪美は咲夜の言葉を聞かずそのままどこかに行こうとする…
「は?待てって… 」
掴まれた腕を振り払いどこかに走り出そうと暴走する雪美の態度に呆れて思わず大きな溜め息を吐く咲夜。
「離して!!やだ、みんな嫌い!」
「さっきまで美味そうに団子を頬張ってたのに突然何を言い出すのかと思えば、何故そうなる?どう考えてもおかしいだろ… 」
「おかしくない!金貸しの娘は嫌われるの!!」
涙を浮かべる雪美の表情から何かあったんだなと察した咲夜は掴んだ腕を離し、真剣な表情で相手と視線を合わせる。
「お前が金貸しの娘だろうがなんだろうが俺は知らないし関係ない、今俺が知り合ったのは " 雪美 " だ。金貸しの娘じゃない!!」
咲夜の意外な言葉に驚く雪美…
もしかしてこの子は私を金貸しの娘じゃなく私自身を見てくれてる?咲夜の言葉に雪美は拍子抜けしながらも " ありがとう " と、恥ずかしそうに伝える。
「ゆき… って呼んでやる」
「え?」
「今日からお前はゆきだ!」
突然のゆき呼びにくすくす笑う雪美。
「じ、じゃあ私はさくって呼ぶ!」
嬉しそうにその場で飛び跳ねながら喜ぶ雪美の姿を見た咲夜は、喜怒哀楽の豊かな女だな… と、苦笑する。
ただ、何故俺がこの女の機嫌を取っているんだ?と、自分の行動に対して不思議に思いながら機嫌の直った雪美に自分の小指を差し出した。
「自分を金貸しの娘だなんて2度と言うな、わかったか?お前はゆきだ!」
「うん!!」
" 私はゆき "
両親以外から初めて自分を認めて貰えた… それが嬉しくて。ゆき呼びが斬新でくすぐったくて、差し出された咲夜の小指に自分の小指を絡め、この日2人だけの約束を交わし、お互い仲良くなった。