優しく笑う君が好きだから

旅立ち

 その夜、明日からの準備をした。旅行で2回くらいしか使ったことの無い大きなボストンバッグを引っ張り出して、洋服や下着類を詰めた。他には、父さんに買ってもらい、ずっと大切にしてきた年季の入った野球ボールとグローブを入れた。
 朝早くから、物音がして目覚めた。居間を見ると、仏壇に手を合わせる母がいた。
「お父さんを最後まで愛します。見ていてください。」
母さんは、父さんの父さん、つまり僕のじいちゃんに話しかけているようだった。どんどん実感が湧いてくるのが嫌で仕方なかった。
 病院に泊まりこんで3日目で父は話さなくなった。目を開けることも無く眠っていた。僕は覚悟を決めた。その2日後父は、僕と母さんが見守る中、眠るように旅立って行った。
 僕は、父さんが亡くなっても意外と冷静だった。母さんが悲しみで倒れてしまいそうだったから、僕が支えるしか無かった。しばらくして、母さんと遺品整理をしていると、2つの手紙が見つかった。それは僕と母さん宛だった。
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